「ヴェルフェン、仕事で、いないだけですよね? 嘘だって。大丈夫って、生きてるって……」蔵秘男宝
「いいえ。彼は負けたのよ。あなたは勝ち、認められた」
「生きてるって、お願いです」
「はるか」
 諭すようにプオルスタヤ。どうしても認められない。
 強く首を振る。
 信じられない。
 信じてはいけない。
「ヴェルフェン!」
 はるかは強く叫んだ。立ち上がり、見渡す限りなにもない雲海に首をめぐらせその姿を探す。
「ヴェルフェン、どこ! あたし……、ここに来て! ヴェルフェン! 逢いに来てよ! 逢いたいの、ヴェルフェン……! ヴェルフェン!」
 悲鳴を喉からほとばしらせながら、はるかは雲海をあてどもなく彷徨い探す。
「隠れてないでお願い。お願いだから、意地悪しないで。逢いたいの……!」
 莫迦だな、なにをしているんだと呆れられてもいい、たったひと目でいいから姿を見たかった。逢いたかった。
 ヴェルフェンを呼ぶ声は、ほとばしらせるそばから月光と雲海に消えていく。蔵秘男宝
 どこまで行っても、銀の雲海だけが空の果てまで続いている。薄青い光が照らすのは、雲の穏やかな流れと、遠く空の向こうを行く飛行機の仄かな明かりのみ。
 名を呼んでも叫んでも、どこを見渡しても、愛しい姿も気配も現れない。
 探すごと、名を呼ぶごと、無力感ばかりが募りゆく。
「はるか」
 はるかの耳に届いたのは、愛しい彼の声ではなく、プオルスタヤの静かな声だった。後を追ってきたのだろう彼女は、髪ひと筋すら乱れていない。先程と同じ姿で、はるかを見つめるばかりだった
 ヴェルフェンが、どこにもいない―――!
 その現実は、はるかの中で彼女を支えていた望みを、脆く崩していく。
(あたしのせいだ)
 はるかは泣きそうな思いでプオルスタヤに向き直った。
「ヴェルフェンは……、ヴェルフェンは反対したんです、諦めてくれって。悪いのはあたしなんです。どうして。どうしてヴェルフェンだけが。あたしたち……一緒って言ってたのに。どうしてあたしだけ。冥界の王が嘘つくなんて」D5原液

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