ディカは首を振る。催情水
だけど、その軟膏を見る目はいつものとろんとしたものではなく、まん丸く見開いたものだった。

僕自身は、その薬の効果の方に意識が向いていた。
塗った先から、じわじわと傷口に染み込み、この程度の傷だとすぐに治ってしまいそうだった。傷の表面はすぐに塞がる。

これが“約束薬”か。

「……ディカ?」

僕はディカを見上げ、ぎょっとした。
ディカがポロポロと涙を流し、泣いていたのだ。

「ど、どうしたんだいディカ。やっぱり、痛かったかい?」

僕は、薬にマズい部分があったのではないだろうかと思って、立ち上がり慌てた。
でも傷は治っているし、成功のはず。

ディカはソファから降りると、僕の足をぎゅっと抱き締める。催情水

「……ロ……ヴァイ……」

小さく言葉を発したディカ。
僕はその言葉を聞き逃さなかった。

思わず、彼女の頭を撫でる。ディカの涙を、理解した。

「……そうか、ディカ。……ローヴァイの事を、覚えていてくれたんだな」

僕の足に縋って泣く彼女は、ローヴァイの名を呟いた。
かつて自分を救った魔術師の魔法薬を、僕の“約束薬”から見いだしたのだ。

「凄いな、1200年も前の事なのに」

嬉しい様な、寂しい様な気分だ。

1200年も前の出会いを、ディカは大事に覚えてくれていた。
血を利用する薬だから、僕とローヴァイが血縁であったと言う事を、魔法薬から感じ取ったんだろうか。
それとも単純に、ローヴァイと僕がかぶって見えたんだろうか。

ディカは少しの間、僕を離す事無く静かに泣いていた。

しばらくして、僕はディカをあやす為に台所まで果物を探しに行ったが、その時もディカは、ずっと僕の服を握りしめていた。

丁度葡萄が一房あったので、それをこんな早朝に、二人でつまんだ。

「お……けっこう甘いな。どうだ、美味しいかいディカ」

「……」

ディカは葡萄の実を吸う様にして食べて、口をもぐもぐさせ頷く。そしてまた葡萄の実に手を伸ばしていた。
気に入ってくれた様だ。

静かで、清々しい空気の、とても不思議な時間だった。

まさかと言うか、やはりと言うか、僕は無理をしすぎた様だ。
最近の過労と寝不足のせいで随分まいっていたのか、徹夜で作業した朝方、調剤室から居間へ行く途中の廊下でぶっ倒れ、ベルルに発見された。
その時のベルルの、悲痛な叫び声はよく覚えている。

医者の不摂生などと言うが、誰かの病を救う薬を作ろうと無茶をして、自分が倒れたら元も子もない。


「過労と寝不足、栄養失調など……まあよくある働き過ぎですね」催情丹

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